memorandum
traveling: towards the border

旅「ここではないどこか」展のリーフレット。

traveling ticket and guide

チケットと会場の見取り図・作品ガイドです。出国・入国を示すスタンプがちょっと旅気分にいざなってくれます。

Isamu Noguchi - AKARI

同時開催されていた、イサム・ノグチ展のリーフレット。

The Rest Room, MOMAT

こちらは常設展の休憩コーナー。反対側にはお堀や皇居が見えます。

……旅する者が探し求める、日常のかなたにあるはずの「ここではないどこか」。また、亡命者が、今住む異郷ではなく、あとにしてきた故郷として思いをよせる「ここではないどこか」。いまや私たちの多くが、何らかのかたちで、旅や移動によって育まれる「ここではないどこか」への思いを持っているような気がします。……
(2003.10.28 - 12.21 東京国立近代美術館)

 あなたにとって、「旅」とはなんですか? 私にとって、旅とはまさに「居心地の良いところを見つけにどこかに行くこと」です。秋にかけてのラッシュだった展示巡りも、これで今年ラストを迎えるでしょうか。すっかり冬の気候となった、東京。今回展示は東京国立近代美術館です。見る前からなんですが、テーマ名がずるいです、「ここではないどこか」。誰もがふと気づくと思いを馳せている「ここではないどこか」をテーマに、10人のアーティストがそれぞれの表現をするという展示です。

 ここで「旅」の定義を明らかにしておきましょう。大辞林によると、《住んでいる所を離れてよその土地へ出かけること。名所旧跡を訪ねたり、未知の場所にあこがれて、また遠方への所用のため、居所を離れること。旅行。》とあります。なるほど、やっぱり未知の場所を訪ねるのは、たとえ近所であっても立派な「旅」と言えそうです。ただ、小さな子供でもない限り、距離的な隔たりが無い場合は、人に話すにはオーバーな気がしますので、一人で心に留めるのがいいのかもしれません。そんなことを考えながら、入り口で出国スタンプを押されて、「小」旅行にレッツゴー。

 旅の始まりは、詩人・瀧口修造の "リバティ・パスポート" と、安井仲治の "流氓ユダヤ" の展示です。"リバティ・パスポート" は、海外に旅立つ友人へのプレゼントで、様々な言葉の断片や焼け焦げた紙片、コラージュで構成されています。ノスタルジーを感じさせる作品ですが、貰った本人達はたぶん嬉しさと同時に、旅とは何かを感じさせられたのではないかなと思います。

 細長い通路の壁一面に展示してある大判のプリント作品群は、それだけで迫力があります。小野博の "When Tommrrow Comes" は、様々な国の風景写真が隣り合って作品をなす写真です。

 ラップが聞こえてくると思ったら、段ボールで作られた大きな薬のパッケージ。その中で "ラリアム(Lariam)" が上映されていました。エリック・ファン・リースハウト(Erik van Lieshout) の作品です。一般的にマラリアの予防に効果があるとされている薬の名前がタイトルですが、なんと鬱病になったり、幻覚や悪夢と言った副作用があるもので、しかも強く出るそうです。このことを知った作者が、ラップでこの薬を止めようぜというメッセージを発信していくドキュメンタリービデオなのですが、旅には見えない恐怖もつきもの。旅は命がけです。

 ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイス(Peter Fischli & David Weiss) の作品群は、旅をもっとも感じやすいものです。空港の窓から各国を代表する飛行機をとらえているものです。私も数度、海外旅行へ行ったことがありますが、一旦出国してしまえば、そこは場所的に日本であっても、免税店があり無税で買い物が出来ます。そこは日本では無いのです。同様に飛行機に乗り、海外の空港へ着陸したとしても、入国手続きをするまでは、まだ外国ではないのです…。では飛行機の中って、どこの国なんでしょうね?

 渡辺剛"Border and Sight" は、国境や境界線をテーマに撮影されたもの。建物も同じなのに、道の反対側は別の国。片方のマンションには生々しい銃弾の後がある一方で、片方は綺麗なたたずまいを見せている…。以前行った、「手探りのキッス」展でも見ましたが、この作品シリーズを見ると私はいつもすごいなあと思います。青く光る部屋では、九州や沖縄の海岸線を2キロ離れた場所から撮影してつないだ帯状の写真。解説に在るとおり、日本にいながらにして日本の外側を見ていることになります。なるほど。

 私が一番気に入ったのは、ビル・ヴィオラ(Bill Viola) の "十字架の聖ヨハネの部屋(Room for St. John of the Cross)" です。スクリーンには、荒々しい風景が映し出されていて、聖ヨハネの詩も朗読されています。暗い部屋の中に小さな部屋があります。安定を約束する小部屋に安住するか、それとも牢獄のような小部屋を飛び出して、風吹きすさぶ外界へ解放されるか…。そのはざまに揺れる心を、聖ヨハネの置かれたシチュエーションにたとえています。神聖な雰囲気のするインスタレーションでした。

 このレポートでは全てのアーティストには触れていませんが、それぞれがどれも「旅」を想像させるにふさわしいものでした。全ての作品を見終わり、出口には入国スタンプが置かれています。これを押して、わずかな非日常への旅は終わります。

 「旅」という言葉自体、それを聞くだけで心が躍る言葉です。自分の思う場所をイメージして、そこでああしてこうしてと、想像をふくらませる。今の時代は、デスクトップ・トラベルがより細かくリアルに想像が出来るようになっています。インターネットの世界においては、場所という概念はもはや意味を持ちません。すると近い将来はネットが発達して自分は移動しなくても……なんて論理を展開させるのは野暮です。やはり、そのとき自分が存在した、場所・雰囲気・思い出を残す/残せるのが、「旅」というものだと思います。
 最初に、居心地のいいところを見つけに行くことと書きましたが、それはすなわち、今居るところと違うところに、新しい逃げ場を作るということ、とも言えるかもしれません。でも、旅することによって、そういうところを発見した、もしくは知っているということが、「ここではないどこか」を求めて彷徨う人生ではなく、「私の安心できる場所」となり、長い人生でも、安心して現実逃避/現実回帰できるようになるのかなと思います。

#同時開催で、イサム・ノグチ展「あかり」を見ることが出来ました。あの有名な照明はこうやって作られてるのか、と感心すること請け合いです。