……ICCリニューアルオープン後初の企画展となる本展は、わたしたちを取り巻くコミュニケーションの諸相に対して、そのオルターナティヴな可能性を提示するものです。音、ゲーム、インターネットなどのメディアを駆使し、現代の政治、経済、身体、都市環境、ネットワークへとユニークな介入を試みるアーティストやプログラマーによる表現を中心に、過去の先見的な作品を紹介します。異なるメディアやコードが「コネクティング」され、情報のずれやノイズが創造的に転換されていく世界へ、ようこそ!……
(2006.09.15 – 2006.11.26 NTTインターコミュニケーション・センター)
2006年の短い夏は終わり、いよいよNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)がリニューアル・オープンしました。一時はそのまま閉館かと各所で噂になり存続が危ぶまれましたが、コンセプトを再確認してのリスタートです。本展示が始まる前には、色んなプレ・オープンイベントが行われていたようですが参加するには都合が付かず、展示が始まってから訪れることになりました。
今回訪れたのは土曜日でしたので、混んでいることを覚悟していきましたが、わりあい空いているようでした。エントランス右のICCカフェも健在で、メニューの値段が結構リーズナブルです。展示料金も大幅に安くなって500円。割引券を持って行けば400円というのが大変ありがたいです。しかし、なんとなく経営は大丈夫なのかと心配してしまいます。
そして、展示空間自体はどうリニューアルされたのかというと、”オープン・スペース” と呼ばれる空間が大部分を占めるという感じです。訪れた人なら分かると思いますが、階段を上がって無響室の方から、その奥までいわゆる「無料展示」空間です。今回の有料展示部分は、階段を上がって、すぐ右のギャラリーだけになります。確かにこれだけのスペースであればこの料金もむべなるかなというところです。
エントランスすぐ脇の展示は、スピーカー取付用の大きなサークルと小さなコンソールの対比が印象的な、遠藤拓己+徳井直生の”Project Phonethica Installation “Rondo”” です。画面に適当な単語を入れると、似たような発音をする別の言語の単語が現れるというものです。インタフェイスも綺麗です。英語になると同じ意味でどこの国でもそのまま似たような発音で使われているので、うーむと思うところです。
階段を上がっていくとたまたまアーティスト・トークに出くわしました。今回は、エキソニモ(exonemo)、タノタイガ(tanotaiga)、ウェイン・クレメンツ(Wayne Clements) が訪れているようで、ちょうど “un_wiki” の解説が行われていました。アーティストを間近で見たり、作品意図を聞けるチャンスはなかなか無いですので興味深かったです。
一区切り経ったところで、奥のオープン・スペースへ。スコット=ソーナ・スニッブ(Scott Snibbe) の “Boundary Functions” や、定番の”Juggler” があったりしてちょっと懐かしい感じですが、このスペースにある展示で特に興味を持ったのは、クワクボリョウタの “loopScape” です。単純な対戦型ゲームなのですが、画面が360度の輪になっているので、自分がどこに居るのか、打った弾はどこから飛んできているか、自分も相手も動き回りながらゲームをします。操作性も良く面白いです。単純ではあるのですが、情報の受け手と送り手、立場の曖昧さを表現するコンセプトが伝わってきます。
エキソニモの “FragMental Storm 02” も、インタラクティブ性が強いアートです。なにがしかのキーワードを入力すると、自動的にそのキーワードに沿ったイメージを取得し、それをVJ風に表示してくれます。バックエンドで検索エンジンが動作しているのだと思うのですが、このソフトウェアが2002年に作成されたことを考えると先見性があったように思えます。
ギャラリーAに戻って、ここからがようやくコネクティング・ワールド展です。今までの所はオープン・スペースで、いつでも無料で見られるというわけです。さて、いつものようにチケットを見せて展示室へ。まずは、経済活動をアートにした、MaSS Dev. と、UBERMORGEN.COM feat. アレッサンドロ・ルドヴィーコ(Alessandro Ludovico) vs. パオロ・キリオの作品。この “GWEI” の実現性は低いにしても、google以外に上場しているサイトでも適用できるだけに面白いと思います。
展示室中央には、エキソニモの大きなインスタレーション “OBJECT B” が幅を利かせています。今見ても目新しいのは、ペーター・フィッシュリ(Peter Fischli)&デヴィッド・ヴァイス(David Weiss) の、“The way things go” です。こういう物を表すものとしてどういう言葉が適切なのか…、incredible machineなのか、ピタゴラ装置なのか、めざマシーンなのか、ともかくそういったものの大がかりなものをインスタレーションにした1987年の作品です。これは見てて飽きません。
先ほどアーティスト・トークを行っていた、ウェイン・クレメンツの”un_wiki” も展示してありますが、今回は日本語版が特別に制作・公開されていました。民主主義に乗っ取って削除されたキーワードがどんどん出てくるのですが、たまに背筋が寒くなる怖いものが出てくる場合があり、ある意味、本来の意味での「社会」が垣間見れるのかもしれません。
“ambient.lounge” から貰ってきたフォーチュン・クッキーの中身。バニラの良いにおいがしましたが、味はイマイチ…。 |
オペラシティ中庭では、即興フルートライブ。子供達が喜んでいました。 |
マヌエル・サイズ(Manuel Saiz) の “Specialized Technicians Required: Being Luis Porcar” も面白い作品でした。スペインの「マルコヴィッチの穴」で、マルコヴィッチの声をやっているルイス・ポルカルが出演し、語っているところを、マルコヴィッチが英語で逆吹き替えをしているという、お互いの声を入れ替えている、洒落を利かせた不思議な作品です。1分程度の短い映像です。
新生ICCの初回展示としてはちょっと物足りない気がしましたが、リニューアルのポイントとしてはどちらかというと、オープン・スペースでの実験的な試み、アーティスト・トークやワークショップが以前より多く開催されるのでしょうか、作る側・見る側双方にとって、お互いが身近に感じられるような感覚になりそうです。ZKMやアルス・エレクトロニカと並ぶよう、メディア&テクノロジー・センターとしての機能を十分に果たしていって欲しいと思います。公共財としてのメディア・センターにならないとなかなか難しいのかも知れませんが…。
#帰りに下にあるアンナミラーズに寄りました。店員さんがみんな可愛くてはっきり言ってアメリカン・メイド・カフェです。ところが経済ニュースによると、どんどん店舗が閉鎖されていくそうで。このオペラシティ店も2006/09/30を以て閉店だそうです。ちなみに、ICCカフェのコーヒーは250円、アイスクリームセットでも450円からという値段です。量はどうなんだろ。