痕跡-戦後美術における身体と思考展

Written by kamochan January 25th, 2005

2005.01.12 – 2005.02.27 東京国立近代美術館にて開催された。

Continue reading →
Close

……1950年代から70年代後半まで、およそ30年にわたる美術の流れの中に「痕跡としての美術」は多様に姿を変えて登場します。そして日本のみならず、アメリカやヨーロッパの戦後美術においてもこのような美術の系譜は脈々と続いています。日本における具体美術協会の活動、読売アンデパンダン展周辺の作家たち、もの派の動向、あるいはアメリカにおけるネオ・ダダ、ボディ・アート、コンセプチュアル・アート、そしてヨーロッパにおけるウィーン・アクショニズム。国籍も時代も表現も全く異なったこれらの動向を「痕跡」という視点から捉える時、現代美術の思いがけない同時性や共通性、表現の多様性と独自性が明らかになるように思います。 ……
(2005.01.12 – 2005.02.27 東京国立近代美術館 痕跡展)

今年は思い立ったら美術館に行こうか…という感じの出だしとなった1月。これが早くも今年2回目。やはり地球温暖化は進んでいるのか、割と暖かいある日の午後、artscapeで見つけた展示を見に行くことにしました。家からほど近い、東京国立近代美術館の「痕跡」展です。名前に惹かれて見に行くのが半ばでしたので、こういう展示のタイトルの付け方ってやはり重要ですね。

今回はジャクソン・ポロックの本物を見てみたいなあ、と思っていた以外はほとんど事前知識無しにまた突撃!入口すぐの所に、ルーチョ・フォンタナのカンヴァスに切れ目の入った特徴的な作品。そして左手にジャクソン・ポロック。嫁さん曰く「絵の具をぶちまけたような感じ」と言っていて、さらにflash秀作の “kunstbar” を見ていたので、ポロックとはなんぞやと思っていたのですが、おお、百聞は一見にしかずとはまさにこのことですね。

作品のそばに作者のプロフィールが書いてあり、これはなかなか親切だと思っていたのですが、よく考えてみると入口からちらっと見えた展示の膨大な量!ほぼ作者一人に対して2~3作品くらいなのでこれは解説を読んでいたら2時間くらいはかかりそうだな…とある程度覚悟して回ることにしました。もし解説を読みたい場合は平日に行かれることをおすすめします。

既に展示室の中にはなにやら異様な重圧感のある空気が流れています。展示は「表面」「行為」「身体」「物質」「破壊」「転写」「時間」「思考」の8セクションに区分分けされていました。出品アーティスト数が多くもはや覚えきれないと思ったのと同時に、これだけの数のアーティストを一度に知れるのは滅多に無いなあと、覚えるのを諦め図録に買ってそれに頼ることにしようと思いました…図録の価格は2000円でした。なので今回のメモランダムは割と正確なはずです。

だいたいセクション順に見て回って行ったのですが、「表面」では村上三郎の剥落する “作品”。横から見ると今にも塗料のようなものが剥がれそうでした。少し後ろに足を引くと何かを踏んだ感触があったのですが、特にこの絵画からのものというわけではありませんでした。
先に「身体」を見たのですがここでいきなり目を惹いたのは、半分頭髪を刈った榎忠の “ハンガリー国へ半刈(ハンガリ)で行く” です。…スゴすぎる!当時会社員であった作者はそのままの半刈りで日常生活を過ごしていたということです。そして、ロバート・ラウシェンバーグとスーザン・ウェイルの “untitled(sue)” が目を惹きました。レントゲン写真のような色調の写真にぼんやりと映し出される人物像。被写体はスーザン自身であり等身大のイメージを焼き付けたものでした。ラウシェンバーグ…ってどっかで聴いたことがあるなあと思ったら、2003年にICCで開催された “E.A.T.展” の主要人物でありました。ははあ、なるほど繋がるものです…展示を見続けている甲斐があったというものです。

自分自身の「記憶の痕跡」も感じつつ次は「行為」セクションへ。オットー・ミュールの “klarsichtpackung” は女性の身体をビニールに包み、絵の具や食品をぶちまけたフェティシズム的錯乱的ストレス解消アート。うむむ。ジョルジュ・マチウの “Toyotomi Hideyoshi” が制作風景も含め非常にクールだと感じました、これは今の感覚だから自然で普通なのでしょうが、この作品が1957年に作られた物とは…。

先に進むと、わざと区切られている部屋は「身体」の続きで、先ほどからカタンカタンと音がしていた物の正体がありました。自動スライドショウマシンが、アナ・メンディエッタの “people looking at blood, moffit” を映し出し、壁面には、マリーナ・アブラモヴィッチの “thomas lips” が上映されています。この小部屋は人間の感覚に強く訴えかけるものを集めた、まさに感じるアート…というよりかは強いメッセージ性を伴うジャーナリスティックな作品のように思えました。「感受性の強い方はご遠慮」と注意書きの通りで納得でした。

ここまで見たところで既にかなり満足していたのですが、展示はまだ続きます。

やはり。という感じの「破壊」セクション。ビデオの記録も上映されていた、村上三郎の “入口” は子供が障子を破るがごとくのアクションの結果が作品となって残っています。ヒントが長男がふすまに穴を空ける様子からということですので納得です。嶋本昭三の “作品” も絵の具瓶を大砲に詰めてカンヴァスに向けて発射するという爽快なもの。量産されるも完成度の都合で今日残るものは今のこの作品しか無いそうです。

「時間」ではデニス・オッペンハイムの “one hour run” が興味を惹きました。雪の大地にスノーモービルで走った形跡を写真に残したものですが、地図が一緒にあるではありませんか。私も写真を撮るコンセプトとして日時と場所を明示的に残しています。これが何時の日かなんらかの痕跡として認識される日が来るのでしょうか。

そろそろ集中力も怪しくなってきたところで、最後のセクションとなりました。なんだこの白いのは…と目を近づけてみると数字がびっしり描かれています。ローマン・オパルカの “OPALKA 1965/1-∞Détail” でした。これこそ見てみないと物が言えませんがこれを描くとなると曼荼羅作家のような敢然たる忍耐力が必要だろうなあ…と思いました。

今回の展示はボリュームが非常に多く大満足です。これを作るに至った発想が凄い!と思える物もあれば、これはアートとしてどうなのよというものもあったりして、見た人が全て様々な感想を持つと思いますが、とにもかくにもこの展示、一見の価値はあります。企画としてこれだけの作品群を揃える事が出来るのも凄いなあと重うと同時に、20世紀美術史の本でも探して読むか…と皇居の森を後にしました。

#今回出展しているアーティストとその関連情報をフォローすべくをまとめを作ります。アーティスト名は「痕跡」展の図録p292-301より。関連情報はこれぞと思うものをピックアップ。今回の図録はアーティストカタログのようなボリュームがあり個人的にはおすすめです。
ヴィトー・アコンチ(Vito Acconci) : ref. moma red studio
マリーナ・アブラモヴィッチ(Marina Abramovic) : ref. eyestorm
アルマン(Arman) : ref. official site
石橋泰幸(Yasuyuki Ishibashi) : ref. dnp artscape
狗巻賢二(Kenji Inumaki) : ref. dnp artscape
スーザン・ウェイル(Susan Weil) : ref. artnet
アンディ・ウォーホル(Andy Warhol) : ref. official site
ウーライ(Ulay) : ref. official site
榎忠(Chu Enoki) : ref. e-mon
榎倉康二(Koji Enokura) : ref. gaden exhibition info.
尾花成春(Shigeharu Obana) : ref. personal diary
デニス・オッペンハイム(Dennis Oppenheim) : ref. official site
ローマン・オパルカ(Roman Opalka) : ref. the millenium project
金山明(Akira Kanayama) : ref. dnp artscape
河口龍夫(Tatsuo Kawaguchi) : ref. Kurashiki Univ. of Science and The Arts
北辻良央(Yoshihisa Kitatsuji) : ref. dnp artscape
イヴ・クライン(Yves Klein) : ref. wikipedia
ジョン・ケージ(John Cage) : ref. wikipedia
斎藤義重(Yoshishige Saito) : ref. MoMA Tokyo
桜井孝身(Takami Sakurai) : ref. official site
沢居曜子(Yoko Sawai) : ref. gallery yamaguchi
篠原有司男(Ushio Shinohara) : ref. New-York-Art.com
嶋本昭三(Syozo Shimamoto) : ref. official site
ジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns) : ref. MoMA
ルドルフ・シュワルツコグラー(Rudolf Schwarzkogler) : ref. supervert.com
白髪一雄(Kazuo Shiraga) : ref. ahiya city meseum
白髪富士子(Fujiko Shiraga) : ref. ahiya city meseum
鷲見康夫(Yasuo Sumi) : ref. dnp artscape
ロバート・スミッソン(Robert Smithson) : ref. offcial site
関根伸夫(Nobuo Sekine) : ref. jkxx
リチャード・セラ(Richard Serra) : ref. art:21
ジム・ダイン(Jim Dine) : ref. guggenheim museum
高松次郎(Jiro Takamatsu) : ref. yumiko chiba associates
辰野登恵子(Toeko Tatsuno) : ref. shugoarts
田中敦子(Atsuko Tanaka) : ref. artnet
ヴィレム・デ・クーニング(Willem De Kooning) : ref. wikipedia
サイ・トゥオンブリー(Cy Twombly) : ref. the menil collection
中西夏之(Natsuyuki Nakanishi) : ref. Kurashiki Univ. of Science and The Arts
成田克彦(Katsuhiko Narita) : ref. dnp artscape
ヘルマン・ニッチ(Hermann Nitsch) : ref. official site
野村仁(Hitoshi Nomura) : ref. art court gallery
ルーチョ・フォンタナ(Lucio Fontana) : ref. official site
アルベルト・ブッリ(Alberto Burri) : ref. guggenheim museum
ギュンター・ブルス(Günter Brus) : ref. MUMOK
文承根(Moon, Seung-Geun) : ref. mindan
メル・ボックナー(Mel Bochner) : ref. artnet
ジャクソン・ポロック(Jackson Pollock) : ref. NGA, Washington D.C.
ジョルジュ・マチウ(Georges Mathieu) : ref. tatsachen über Deutschland
オットー・ミュール(Otto Muehl) : ref. google search results
向井修二(Shuji Mukai) : ref. dnp artscape
村上三郎(Saburo Murakami) : ref. art court gallery
アナ・メンディエッタ(Ana Mendieta) : ref. Guggenheim Meseum
ロバート・モリス(Robert Morris) : ref. guggenheim gallery
山内重太郎(Jutaro Yamauchi) : ref. dnp artscape
山崎つる子(Tsuruko Yamazaki) : ref. ashiya city museum past exhibition
吉田稔郎(Toshio Yoshida) : ref. dnp artscape
吉原治良(Jiro Yoshihara) : ref. dnp artscape
吉村益信(Yoshimura Masunobu) : ref. dnp artscape
ロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg) : ref. artnet
李禹煥(Lee U Fan) : ref. JKXX
バリー・ル・ヴァ(Barry Le Va) : ref. artfacts
ソル・ルウィット(Sol Lewitt) : ref. SFMOMA past exhibition
リチャード・ロング(Richard Long) : ref. official site

 

  • Photo: kamochan

Leave a Reply

ART-MEMO

2015.04.11 – 2015.06.28 東京都現代美術館にて開催された。

Continue reading →

View all

UNCATEGORY

creating images, leaving the moment behind…

Continue reading →

View all