……1923年は、造形学校バウハウスにとって非常に重要な年でした。それまでの活動の成果を示す大規模な展覧会が行われたのです。開講4年目のこの大イベントに、バウハウスは全校を挙げて取り組みました。授業の成果である学生の習作、工房での作品の展示に加え、教師や学生の絵画の展示、グロピウス企画による「国際建築展」、後援会や音楽会、舞台の上演、目玉である実験住宅や学長室の披露など盛りだくさんのプログラムで、この小さな造形学校は一躍世界に注目される存在となったのです。……
(2006.03.27 – 2006.07.31 ミサワバウハウスコレクション)
あまり天気が冴えなかった今年の5月、ようやく晴れ間と気温が戻ってきました。今回はミサワホームHD株式会社が所有するバウハウスコレクションを見に行くことにしました。正確には美術館ではないのですが、定期的にバウハウスに特化した企画展を行っているようで今回が18回目。さほど大々的に宣伝をしているわけではなく、メジャーなテーマを扱っているのに穴場的な展示に惹かれ、思い立ったがなんとやらで早速出発です。
…といってもまずは事前に予約が必要なシステム。今回は前日に予約をしてOKでした。たまたま休みが取れて良かったのですが、毎週水・土日祝・会社休業日が休みという敷居の高さ(笑) ここは環八沿いにあり渋滞に巻き込まれるのもなんなので、車で行くことをパスして、久しぶりに京王線に乗ることにします。相変わらずの学生街、明大前で井の頭線に乗り換えてほどなく高井戸駅に到着です。乗り換えの時に思ったのですが、今のファッションは本当にミニスカートと愛されレースなんですね。
高井戸駅ホームから石神井方面。この駅は環八の上にあります。高井戸はhpも有名です。 |
高井戸駅ホームから高井戸IC方面。コンクリート打ちっ放しの建物が見えるのですがそれが目的地。 |
駅の改札を出て、そのまま高井戸IC方面へ緩やかな坂を登りつつ、徒歩約5分で到着しました。玄関を入ると、すぐ目の前に “misawa bauhaus collection” の文字が。内線でスタッフの方に連絡を取り、入口を開けて貰って、簡単な説明を聞いてからは好きなように見学できるようです。
というわけで、まさに貸し切り状態で見学することが出来ました。展示スペースと図書室に分かれているホールは、天井は高いもののさほど広くないのですが、自分しか居ないのでともかく贅沢です。バウハウスが設立されたのは1919年で、なんとなく坂本龍一の “1919” が思い出されたのですが、今回の展示は、バウハウスが最初に展覧会を開催した(政府による決定だったようですが)1923年を中心としたものとなっています。
まずは、当時の舞台のマイスターだった、オスカー・シュレンマー(Oskar Schlemmer)の “トリアディッシェス・バレエ(Triadische Ballett)” のビデオ上映と、バウハウスの舞台に関する作品があります。今回初めてこのバレエを見ました。大きく3部に分かれていますが、さらに1-3分の細かいパートに分かれているのですが、ともかく衣装が今見ても斬新です。音楽と動きも絶妙にマッチしていて、確かにこの作品が後世に与えた影響は少なくないでしょう。1部目は正直退屈な感じだったのですが、2部目から俄然面白くなってきます。しかしこれはビデオなのである程度カメラワークに制限されているところがあります。ライブ上映した時は一体どんな感じだったのかと思うとそれもまた興味をそそります。40分程度の上映時間でした。
パンフレットに載っている、ローター・シュライヤー(Lothar Schreyer)の “天使” もあります。
ホールの中央には、今回の展示の目玉である、バウハウスの学長室の再現がありました。ここは靴を脱いで展示の中に入れます。幾何学模様のようなパイプ照明も若干小さいながらも良く再現されていて、このあたりがなぜかミサワホームらしさを感じました。その横には、バウハウス展のカタログや、インフレ時に刷っていた紙幣がありました。残念ながらカタログの中身は見られないのですが、どこかで中身を見てみたいものです。
バウハウス展で大きな賛否を巻き起こした、”アム・ホルンの家(Musterhaus Am Horn)” の模型と見取り図もあります。当時は、こんな無機質で工場のような家で部屋割りにも問題有りという意見が多かったようですが、最終的には意義ある建築とされたようです。21世紀になった今では、建物の外壁が真っ白だったり、廊下が無いのはごく自然に感じられるし、むしろ部屋割りなどない現在の住宅の間取りのベースには、この実験住宅があったのです。もう少しで100周年ですがいやはやすごいものです。
ギュラ・パップ(Gyula Pap)、マルセル・ブロイヤー(Marcel Lajos Breuer)、マリアンネ・ブラント(Marianne Brandt)が制作した、インテリア実用品の展示もあり、それらにもざっと目をやりつつ、奥にある第2展示室に進んでいくとこれまた圧巻です。ちょっと暗い照明なのですが、壁一面が天井近くまで作りつけられた本棚になっており、全てバウハウスに関する書籍で埋められていて、趣のある図書館状態です。ちょっと時間が無かったので、雰囲気だけを楽しんできたのですが、スタッフの人に言えば、中身を読むことももちろん可能だそうです。十分にじっくりと贅沢な時間を過ごして、小さな美術館を後にしました。
ミサワホーム総合研究所内にあります。 |
ホール入口。予約は前日までにしておきましょう。 |
一企業の私的コレクションなので、帰りにミサワホームを建てませんかとか言う勧誘でもあるのかと思ったのですが(笑)そんなことは一切ありませんでした。私企業のコレクションとはいえそれを無償で公開し、企画展を行っている姿勢は大変評価に値すると思います。ミサワホームの理念を無言で強固に補完するコレクションとなっていると思います。www.bauhaus.acというドメイン名を取得しているところからもそんな姿勢が伺えます。様々な都合で大々的に存在をアピールできないのかも知れませんが、バウハウスに興味のある人は訪れる価値が十分にある場所だと思います。建築に興味のある学生さんは、前述した開館日から言って必ず訪れるべきかと思います。また、機会を見て訪れてみたい美術館になりそうです。
2006.06.18追記: ちなみにこの展示は、タッシェン(Taschen)社から出ている、マグダレーナ・ドロステ(Magdalena Droste)著の “bauhaus” の p.101あたりから詳しいです。行く前に読んでいけば良かった。
#5年くらい前は嫁さんが高井戸に住んでいたのですが、その時に何故ここの存在を知らなかったのか悔やまれます…。オオゼキのポイント10倍とかで喜んでいる場合ではありませんでした。