小川信治展 干渉する世界

Written by kamochan December 4th, 2006

2006.10.03 – 2006.12.24 国立国際美術館にて開催された。

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……小川信治(1959年生まれ)は一貫して、見慣れた情景を改変して、私たちが普段見ているものとは別の世界の可能性を探ってきました。ダ・ヴィンチやフェルメールといった西洋古典絵画からイメージの中心となる人物を抜き去って描き直した「WITHOUT YOU」シリーズ、アジェの写真や古い絵葉書を元に、人物や建物などを二つ並べて描き込む「PERFECT WORLD」シリーズ、一つの風景が層状に組み換えられて別の風景を作り上げる「干渉世界」など、油彩・鉛筆画・映像の三つのメディアで、小川の作品は展開してきました。……
(2006.10.03 – 2006.12.24 国立国際美術館)

エッセンシャル・ペインティング展を見終わったあと、上のフロアでは美術館の常設展と小川信治(Shinji Ogawa)展が開催されているようでした。エントランスで貰った、この展示のパンフレットが建築の写真展のような感じだったので、帰りに寄っていこうと思ったのですが、こんな才能に出会えるとはよもや思っていませんでした。見終わった後でこうして感想をまとめると、改めて凄いと思わざるを得ません。

小川信治展は常設展の奥で開催されていました。この絵葉書を虫眼鏡で見て欲しい。という展示からスタートです。覗き込んでみるとあまりに違和感のない「普通」の外国の風景。絵葉書。よく分からないけど、展示は写真?と近寄ってみると、ここで初めて気づきました、これらの作品が全部鉛筆で書き込まれていたのです。
ということは…で虫眼鏡の絵葉書の展示を改めて見直して、緻密な世界に気づかされたのでした。銅版画の彫りの細かさに似た、超細密な絵画というべきか…。絵葉書に書き込むという発想が面白いなと思いつつ、その作品数に圧倒されました。あまりに細かく自然に描かれているため、もともと一つだった人物や建物が二つに増えていても、それがさも実際に写真を撮ったかのように「自然」に認識されてしまいます。これは “PERFECT WORLD” シリーズと名付けられた作品群でした。

また過去の有名な絵画群から主題となるべきものを取り除いた、”WITHOUT YOU” シリーズも見事です。たとえばヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)の “牛乳を注ぐ女” から、主題となるメイドを取り除いたものや、ミレー(Jean-François Millet) の “落穂拾い” から農婦を取り除いたものが展示されています。こちらは前述したシリーズと違い、元のモチーフとなるものが写真ではなく絵画なのですが、主題を取り除いた部分、そこは白いキャンパスとなるところに、当然見えるべき背景を補完させて、ごく自然にシーンが再構築されています。西洋絵画だけではなく、日本の浮世絵でのバリエーションもありました。さらに奥の小部屋には春画もあったりします。ここは入り口に係員も居たりして18歳以下お断りでした。さまざまな画風にもさりげなく対応する、小川氏の描写力に驚きです。

映像作品も出品されています。ついつい次の展開に見入ってしまう “干渉世界” は、いわゆるレイヤ(photoshop等のレイヤと同じです)の上に、人物・風景・建物が乗っており、それらがレイヤ毎に出現/消去されることで、新たな世界がいつの間にか展開されていく作品になっています。10分程度の作品でした。

子供達とのワークショップも開催されていたようで、出口近辺にリング状に継ぎ目なく子供たちの絵が飾られていました。子供の絵の独特なタッチが可愛らしいです。しかし、これだけだと単に小川氏が子供に絵を教えてそれの展示かと思いました。が、この作品群、小川氏の絵が間に入って、継ぎ目ない「世界」に再構築されているとの解説。子供達の絵にも干渉できるとは…いやはや本当にすごいものです。

小川信治のプロフィールを見ると、活動ベースは名古屋で主に関西周辺で展示を行っているようです。東京ではあまり展示は開かれていない様子でしたので、ぜひとも東京での展示機会も増やしてほしいと思うところです。

かなり満足して、隣のスペースの収蔵展の「コレクション3」を見てみます。こちらは写真が主に展示されています。やなぎみわ(Miwa Yanagi)の “The White Casket” や、”アクアジェンヌ イン パラダイス II” が展示されています。前から何回か紙面で見たことはあるのですが、実物を見たのはこれが初めてで、思わずうなります。他にも目を惹いたのは、宮本隆司(Ryuji Miyamoto)の廃墟の写真群や、米田知子(Tomoko Yoneda)の眼鏡シリーズでした。こちらの作品展示数もまずまずで、ゆっくり見ていたかったのですが、時間が無くそろそろ出口へ。私もいつか巨大な写真プリントをしてみたいものです。

ミュージアムショップにて、小川展の図録を購入しました。1200円でかなりお得です。また機会があったら是非とも訪れたい美術館です。エッセンシャル・ペインティング展とは対照的に日本人作家の作品が多かったのですが、率直な感想としてはこのB2フロア展示がかなり良かったです。日本人アーティストもどんどん評価されるべきでありましょう。

#私だけかも知れませんが、国立国際美術館の存在を知りませんでした。しかし、訪れて感じたのは、さすがは国立美術館という雰囲気とラインナップ。人それぞれ、展示空間の使い方や常設展・企画展には一家言(?)あると思いますが、多くの人に見に来てもらって、主に日本の様々な作家のサポートとなるような文化創造施設となることを願ってやみません。

 

  • Photo: kamochan

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